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【2025年版】AIはイラストレーターの仕事を奪うのか?変化する価値と「人間にしか描けないもの」

1.はじめに:5年前の「未来」と、今の「現実」

2020年、私は「AIが進化しても、イラストの仕事はなくならない」という記事を書きました。当時、AIによるイラスト生成はまだ黎明期にあり、その考察は未来への一つの推測に過ぎませんでした。

そして2025年、その未来は私たちの想像を遥かに超える形で現実のものとなりました。

この記事は、5年前に書いた考察を、現在の生成AIの驚異的な進化と、それがもたらした厳しい現実を踏まえ、「では、人間のイラストレーターはどう生き残るべきか?」という、より実践的な「生存戦略」として全面的に書き直したものです。

2.【2020年】、私たちはこう考えていた

まず、5年前に私たちが立っていた場所を振り返ってみましょう。
当時の記事で、私は以下のように結論付けていました。

【2020年時点の考察まとめ】
  • 絵を描く人はゼロにならない:
    AIが描けるようになっても、人間が持つ「描きたい」という欲求はなくならない。
  • 「教える」仕事は残る: 描きたい人がいる限り、教材や指導者の需要は続く。
  • 「ブランド化」が重要になる:
    「誰が描いたか」が価値になる。「AIは工業製品」で「絵描きは職人が作ったもの」という差別化が起こる。

この考察の根幹、特に「ブランド化」の重要性という視点は、今もなお、そしてこれまで以上に重要になっています。しかし、AIの進化のスピードは、私たちの想像を遥かに超えるものでした。

3.【現実】2025年、生成AIはここまで進化した

5年の時を経て、私たちは生成AIが持つ「2つの圧倒的な力」を直視しなければなりません。

①「大衆」を満足させる品質と、②「大量生成」という力

「一部の専門家が細部を見れば不自然な点はあるかもしれないが、Pixivなどでイラストを眺める多くの一般ユーザーにとっては、AIが生成するイラストはすでに十分な実用レベルに達しているのが現実です。

さらに、人間には決して真似のできない「大量生成」という力を持つAIは、「安く」「早く」「それなりに良い」イラストを求める「コモディティ市場」の需要を、凄まじい勢いで満たし始めています。

参考:近年の生成AIの進化速度は、各プラットフォームでも顕著です。

AI技術等に関する、サービス共通利用規約、pixivガイドライン改定のお知らせ:
https://www.pixiv.net/info.php?id=9640

Adobe Firefly に関する FAQ
https://helpx.adobe.com/jp/firefly/get-set-up/learn-the-basics/adobe-firefly-faq.html

WikipediaのStable Diffusionの記事:

https://ja.wikipedia.org/wiki/Stable_Diffusion

プロセスの模倣

かつて人間だけの領域だと思われていた「制作過程」すら、AIは模倣し始めています。

イラストからラフや線画を抽出したり、描いている風の動画を生成したりすることも可能になり、「プロセスを見せる」ことだけでは、もはや差別化になり得ません。

4.【本質】それでも「人間にしか描けないもの」とは?

では、人間のイラストレーターの価値はどこにあるのか?
それは、AIの仕組みを理解することで見えてきます。

AIの本質:「既存」の組み合わせ

生成AIは、既存の膨大なデータを学習し、そのパターンを組み合わせて新しい画像を「生成」します。

そのアウトプットは時に個性的で、驚くほど高品質に見えます。しかし、その根源は常に、過去に人間が生み出してきたデータにあります。

このAIの根源的な特性こそが、人間だけが持つ絶対的な価値を浮き彫りにします。

人間の価値1:『無』からの創造

これが、AIと人間の決定的な違いです。 AIが「既存」の組み合わせであるのに対し、人間は「世にまだ存在しないもの」、つまり『無』から新しい概念を創造することができます。

  • 全く新しいキャラクターデザイン
  • 誰も見たことのない服装
  • 矛盾を内包した、独創的な世界観
  • 個人の深層心理から生まれる、幻想的なイメージ

これらは、過去のデータを組み合わせるだけのAIからは決して生まれない、人間だけが持つ創造性の領域です。

人間の価値2:『個性』という最強の盾

AI時代のクリエイターにとって、「個性的な絵柄」は単なる作風ではなく、最強の「盾」となります。

  • 対AI防御として:
    個性が強い絵柄は、AIによる模倣(Lora化など)をされた際に「盗用である」と非常に分かりやすくなります。 これは、自身の著作権を守るための強力な防御策です。
  • 対大衆向けブランドとして:
    大量生成される「良さそうなAIイラスト」の海の中で埋もれないためには、一目見て「あの人の絵だ!」と分かる強烈な個性が必要です。
    その個性に惹かれた人々がファンとなり、熱狂が生まれます。

人間の価値3:『信頼性』というプロの生命線

企業がAIイラストの商業利用を躊躇する最大の理由は、著作権侵害などの「法的リスク、倫理的なリスク」です。

この状況において、「このイラストは、私が全工程を責任を持って制作した、権利関係のクリーンな作品です」と保証できること自体が、プロのイラストレーターが持つ、AIには決して真似できない絶対的な価値となります。

5.【未来戦略】では、「個性」はどうやって見つけるのか?

「個性的な絵柄が必要だ」と言われると、多くの初心者は「どうやって個性を出したら良いのか?」と悩みます。奇抜なスタイルを探し、迷走してしまうかもしれません。

結論:個性とは、探すものではなく、基礎を極めた先に見つかるもの。

個性とは、最初から意識して作るものではありません。

美術解剖学や光と影の理論といった普遍的で論理的な「型」を学び、「上手に描くこと」を愚直に追求する。

その長い、長い練習の過程で、あなたの中から自然に滲み出てくる「本人のフェチや感覚」—例えば、「自分は髪の毛のツヤを描くのが一番楽しい」「どうしても力強い線を描きがちだ」といった、無意識の「こだわり」や「クセ」。

この「論理の積み重ね」の先に、コントロールできない「感覚」として滲み出てきたものこそが、誰にも真似できない本物の「個性」なのです。

AI時代は、私たちに問いかけています。

小手先のテクニックではなく、あなたの中から滲み出てくる「あなただけの表現」とは何か、と。

その答えを見つけるための道は、結局のところ、地道な基礎練習と、自分自身の「好き」という感覚に向き合い続けることにしかありません。

6.まとめ

AIの進化は、人間のイラストレーターから「単に綺麗な絵を早くたくさん描く作業」を奪うかもしれません。

しかしその代わりに、「信頼性」「実在性」「共感」「原体験」といった、より本質的で、人間にしか生み出せない価値を、かつてないほど浮き彫りにしています。

AIを正しく恐れ、自身の戦う場所を再定義すること。

そして、その場所で戦うための最強の武器である「個性」を、論理的な基礎の積み重ねの上に見出すこと。 それこそが、これからのクリエイターの生存戦略であると、私は結論づけます。

イラストを「描く」のを上達させるための基本的な練習方法はこちら

よくある質問(FAQ)

Q1. AIイラストにも著作権はありますか?

現状(2025年)ではAIが完全に自動生成した作品に著作権は発生しません。ただし、プロンプトや構図設計など人間の創作性が加わる場合、その部分に著作権が認められる可能性があります。
(本記事は2025年10月時点の法制度を基にした一般的見解です。)

Q2. イラストレーターがAIを使うのは問題ですか?

法的には使用自体は問題ありませんがAIの学習元となっているイラストが無断学習という点は問題です。そのため、倫理的な側面でまず問題があります。またAIの性質上、元となっているイラストなり写真などがあるので、著作権違反をしていないかは十分な確認が必要になります。

企業と仕事をするイラストレーターの場合に重要なのは「素材の出所」と「クレジット表示の透明性」です。商用利用の場合は各サービスの利用規約(Pixiv、Adobe Fireflyなど)を必ず確認しましょう。

※注:企業はリスクを背負いたくないため、少しでもAIを使用している雰囲気があると近づいてこなくなる可能性があるのでイラストレーターとして活動をしたい場合は、使用しないのが望ましいです。

Q3. AIに負けないために今できることは?

自分の絵柄や感覚を言語化し、基礎練習を重ねることです。技術+感覚の両輪を磨くことで、AIでは再現できない「人間の深み」が生まれます。