【Q&A】「トレース」「模写」「パクリ」の境界線はどこ?SNSで炎上しないための「安全ライン」

「練習のために好きなイラストを模写したけど、SNSに上げたら炎上する?」 「ポーズが似てしまっただけでパクリと言われないか不安……」
SNSでの活動において、パクリ疑惑や炎上トラブルは最も避けたいリスクです。
しかし、どこまでがセーフで、どこからがアウトなのか、その境界線は曖昧に見えます。
結論から言います。一番の分かれ道は「第三者の目に触れるかどうか」です。
※ここで言う分かれ道は、法律の白黒ではなく「炎上・トラブルになりやすさ」の話です。法律上の可否はケースで変わります。
原則として、自分一人で練習して保存するだけなら、よほどのことがない限り、炎上する可能性は低いです。ただし、炎上しない=権利的に問題がないとは限りません。
そして、SNSなどで「第三者に公開」するなら、練習と同じ感覚ではいけません。
SNSは拡散性が強いため炎上しやすいですが、本質的な問題は「他人の写真やイラストを許可なく使い、それを他者に見せること」にあります。
この記事では、「トレース/模写/参考」の違いを整理し、公開前に確認すべき「安全チェックリスト」を解説します。
※本記事はイラストレーターの視点で一般的なマナーやリスクをまとめたものです。個別の法的な判断を保証するものではありません。
※法律上の可否はケースで変わるため、本記事では主に炎上・トラブル回避の観点で整理します。
1.トレース・模写・参考に違いはある?

まずは言葉の意味を確認しましょう。 実は、「なぞって描いたか(トレス)」それとも「見て描いたか(模写)」という描き方の違いは、パクリかどうかの判定にはあまり関係ありません。
- トレース: 元画像の上に紙やレイヤーを重ねて、線をなぞること。
- 模写: 元画像を横に見ながら、目で見て写し取ること。
- 参考: 構造やポーズを見て、自分の絵柄や別のキャラに置き換えて描くこと。
【重要】大事なのは「描き方」よりも「結果」
トラブルになる時に重視されるのは、以下の2点だと言われています。
- どれだけ似ているか(激似か?) パッと見て「これ、あの絵が元ネタだよね?」と誰でもわかるくらい、特徴がそっくりそのままか。
- 元ネタを見て描いたか(バレバレか?) 偶然の一致ではなく、明らかにその絵を見て描いたことがわかるか。
つまり、「上からなぞっていないから(模写だから)セーフ!」という言い訳は通じにくいということです。
たとえ目視による模写でも、結果として完成品が「元ネタと瓜二つ」なら、それは「無断利用」や「パクリ」と同じ扱いを受けるリスクが高まります。
2.「題材(よくあるポーズ・構図)」と「表現(その作品らしさ)」の違い
「でも、棒立ちのポーズなんて誰が描いても被るじゃないか!」 その通りです。
ここで重要になるのが、「題材(よくあるポーズ・構図)」と「表現」の違いです。
2-1.「題材(よくあるポーズ・構図)」は独占できない
著作権の基本的な考え方として、完成した絵などの「具体的な表現」は守られますが、その元となる「題材」は、誰かひとりが一般的には独占できるものではないとされています。
ありふれた題材・ポーズ・構図だけが一致しても、侵害と判断されないケースもあります。
ただし、作品の本質的特徴(演出・小物・光・切り取り方など)まで揃うと、リスクが上がります。
表現(守られる): その作品特有の「特徴的な小物」「モデルの固有の特徴」など。
題材(みんなのもの): 「ピースサイン」「座っている姿勢」「ありふれた構図・物」など。
もし「座っているポーズ」を誰かが独占してしまうと、他の誰も座っている絵が描けなくなってしまいます。
だから、「ポーズや構図などの題材を参考にして、全く違うキャラ・服・表情(表現)を描く」場合は、トラブルになりにくいケースが多いのです。
【具体例】どこまで似るとアウト?
同じ「ピースサイン(題材)」でも、カメラのアングル・光の当たり方・背景の小物・切り取り方まで揃うと、それは「ポーズ」ではなく「作品全体の表現」が似ていると判断されやすくなります。
「ポーズが同じだけ」なのか「絵作り全体をパクっている」のか、という点が炎上の分かれ目です。
【参考リンク】イラストや画像の著作権侵害の判断基準は?どこまで類似で違法?ー企業法務の法律相談サービス
3.炎上しないためのQ&A
自分の絵を公開していいか迷ったら、このチャートで確認してください。
Q1. その絵は「公開」しますか?(SNS、同人誌、ポートフォリオ等)
- いいえ(非公開で練習するだけ) → 【リスク低】(個人練習の範囲内であることが多い)
- はい → Q2へ
Q2. 元にした画像(資料)は誰のものですか?
- 自分で撮った写真・自作の3D → 【リスク低】
- 公式の素材集(商用利用OK) → 【リスク低】(規約厳守)
- 他人の写真・イラスト(ネット検索等) → Q3へ
Q3. 元画像とどれくらい似ていますか?
- そのままトレース・模写した → 【リスク高】(無断利用・権利侵害と判断される可能性が高い)
- ポーズや構造だけ参考にして、キャラや絵柄は別物に変えた → 【比較的安全】(ただし過度な類似に注意)
【コラム】「参考元を明記」すれば許される?
「元ネタ:〇〇様」と書けばセーフだと思われがちですが、これは万能ではありません。
むしろ、激似のまま公開して元ネタを明記すると、「これを見て描きました」という自白になり、権利侵害を確定させてしまうリスクすらあります。
迷うくらい似ているなら、公開しないか、複数の資料を組み合わせて「別物」まで昇華させるのが安全です。
4.【線引き】やっていいこと・悪いことリスト
具体例で「OK/NGライン」を見てみましょう。
- ネット検索の画像を無断トレス: 「Google画像検索」や「Pinterest」にある写真はフリー素材ではありません。
- 左右反転・一部改変(パクリ): 元絵を反転させたり、髪型だけ変えても「似ていること」は変わりません。いわゆる「トレス疑惑」で最も炎上するパターンです。
- 実在の人物・ロゴ: アイドルの写真をトレスすると「肖像権」などの侵害になります。また、ブランドロゴなどは「商標権」に関わります。
- 自分で撮った写真(自撮り): 自分の手や体をスマホで撮ってトレスするのは、プロもやる正当な手法です。
※注:友人を撮る場合は本人の同意を得ましょう。背景に他人の著作物(ポスター等)が入り込まないよう注意が必要です。 - 商用利用可・トレス可の素材集: 書籍やダウンロード素材。「トレスOK」と明記されているものを使いましょう。
【参考リンク】イラストポーズ集おすすめ書籍ーきゃんばすクラスタ - 3Dモデル(クリスタ等): CLIP STUDIO PAINTなどの3Dデッサン人形をなぞる行為。
多くの3D素材は「作画補助としての利用」を認めていますが、「3D形状そのものの再配布」や「特定の用途」を禁じている場合もあります。必ず配布元の規約を確認してください。
5.【解決策】パクリと言われないための「資料の正しい使い方」
「ネットの画像をトレスするのがダメなら、どうやって描けばいいの?」 その答えは、「安全な資料を使う」ことと、「そのまま使わず『変換』する」ことの2点です。
以下の3つの方法を用いることで、パクリ疑惑を回避していきましょう。
5-1.「1枚」ではなく「複数」を組み合わせる
最もパクリと言われやすいのは、「1枚のイラストや写真を丸ごと真似する」からです。
これを防ぐには、資料を分散させます。
※資料を分散させた場合でも、そのまま真似をするのはいけません。
- ポーズ: 自分で撮った写真
- 手の形: 3Dデッサン人形
- 服のシワ: ファッション誌や資料集
※雑誌や写真は、トレスではなく“シワの観察用”として参考にします。
このように複数資料を組み合わせることで、特定の1作品に似て見える要素が分散しやすくなり似るリスクを下げることができます。
ただし、特定作品の本質的特徴が残っているとパクリのリスクは消えません(迷う場合は公開を控えるのが安全)。
5-2.権利クリアな「素材サイト」を使う
Google画像検索などではなく、最初から「イラストの資料として使ってOK」と明記されているサイトや書籍などを使いましょう。
- ポーズ集サイト・アプリ: 「商用利用可」「トレス可」とあるもの。
- ストックフォトサービス: 写真素材サイト(Unsplash、写真ACなど)で購入・ダウンロードしたもの。
※規約で「そのままの再配布」は禁止でも、「イラストの参考資料にする」のはOKな場合がほとんどです。
5-3.模写を「構造」だけに変換する
自撮り写真や3Dモデルなどの「安全な資料」を使う際、そのままなぞるとリアルすぎて絵柄に合わない(浮いてしまう)ことがあります。
そこで、写真を一度「球・箱・円柱」などの単純な図形(アタリ)に置き換えてから描きます。
この「写真を構造図に変換して描く技術(ハイブリッド模写)」を使えば、自撮りや3Dモデルを、違和感のないアニメ絵に昇華させることができます。「権利的に安全な素材」を「アニメ絵として使える形」にするための必須テクニックです。
▼この「構造変換」の具体的なやり方はこちら
6.イラストが「似てしまう」ことへの不安と、私がたどり着いた考え
イラストを描き始めた当初は、何を描いていいのかもわからず、見よう見まねで人の絵を真似て描くことがよくありました。
当時は今ほどSNSが発達していなかったため、それを投稿してトラブルになることはありませんでしたが、Web上で「トレス・パクリ疑惑」が炎上するのは昔からよくある光景でした。
活動を続ける中で、私が最も怖かったのは「意図せず似てしまう」ことです。
描いていると、どうしても過去に見たイラストとポーズが似通ってしまう瞬間があります。独創的な絵を描く技量も経験もなかったため、どうしても「ありきたりな構図」になってしまい、「これ、あの人の絵に似てないかな? 大丈夫かな?」と不安になることも多々ありました。
しかし、今はこう割り切っています。 「意識的にパクったりトレースしたわけではないなら、若干のポーズ被りは仕方ない」
「題材(よくあるポーズ)」が被るのは、ある種「セオリー通りに描けている」証拠でもあります。そこに悪意がなければ、過度に恐れる必要はないと考えるようになりました。
ただし、「明確な参考資料(他人の絵)」がある場合は別です。
これに関しては、今でも「自分のパソコン内だけで見る(公開しない)」というルールを徹底しています。「偶然似てしまう」のと「見て似せる」のは、似て非なるものだからです。
まとめ:公開するなら「素材の出所」にこだわろう
- 非公開: 練習でPCに保存するだけなら、リスクは低い。
- 公開: 第三者に見せるなら、他人の作品をそのまま使うのはNG。
- 解決策: 「複数の資料を混ぜる」「権利OKな素材」「構造への変換」を行えば、安全に公開できる。
「炎上が怖いから何も見ないで描く」のではなく、「誰にも文句を言われない安全な資料(自撮りや3D)、書籍」を積極的に使いましょう。それが、精神的にも技術的にも一番の近道です。
▼トレースフリーなキャラクターのポーズ集に関する書籍は以下の記事でまとめています。
では、その安全な素材を使って、どうやって違和感のないイラストに落とし込むのか? 具体的な練習手順については、以下▼の記事で解説しています。













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