【完全決定版】イラストの光と影の描き方:なぜ影はそう落ちる?論理的な捉え方

はじめに:あなたの絵が「のっぺり」する、本当の理由
「キャラクターは描けても、なんだか立体感が出ない…」 「影をつけても、なぜか絵が汚く見えてしまう…」
そんな悩みの原因は、デッサン力や色彩センス以前に、もっと根本的な部分、つまり「光」の正体を論理的に理解していないことにあるのかもしれません。
多くの解説書は、影の「塗り方」というテクニック(How)を教えてくれます。
しかし、本当に重要なのは、その前段階である「なぜ、そこに、その形の影が落ちるのか」という理由です。
この記事では、小難しい物理の話ではなく、イラストを描く上で最低限知っておくべき光の「ルール」を、図解を交えながら分かりやすく解説します。
単なる知識の紹介に留まらず、あなたが光を論理的に考えるための「思考の武器」を手に入れ、それを実践で使いこなし、壁にぶつかった時に自己解決できるようになることを最終目標としています。
この記事を読み終える頃には、あなたは自分自身で考えて、説得力のある光と影を理解して描けるようになっているはずです。
さらにこの記事では、単に立体感を正しく描くだけでなく、その光を使って『どんな雰囲気や感情を伝えたいか』を意図的にコントロールする『光の設計』という考え方までまとめています。
光を操ることは、絵に物語を語らせる最強の演出テクニックなのです。
- 影が「なぜそこに落ちるのか」を、光源位置と立体の関係から論理的に説明できるようになる
- 「暗く塗る」ではなく、影の種類(形の影/落ち影)と役割を分けて判断できるようになる
- 立体感を作るための“影を決める5つの要素”(光源・面の向き・距離・遮蔽物・反射光など)を使って、迷わず設計できる
- 反射光・ハイライト・グラデーションの入れ方が整理され、塗りが一気に破綻しにくくなる
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0.イラストを描くときにはまずは光源を決める

イラストを描いているときに影が迷子になってしまう原因は、出発点が曖昧なことにあります。
描き始める前に、まずはたった一つの作業を習慣にしてください。それが「光源の設定」です。
これは、これから描く絵の光の方向を、あらかじめ言葉として書き出し明確に決めておくことが大事です。
イラストを描くというのは物を作るときの設計図を描くのと同じです。
最初に光の方向をはっきりと決めておくことで、影の形、長さ、色、ハイライトの入れ方など、この後に行う全ての判断に一貫性が生まれます。
作業の途中で「あれ、ここの影はどうなるんだっけ?」と手が止まってしまうことがなくなるのです。
迷いが生まれると、それだけでイラストを描く時間も長くなるため時間短縮の効果もあります。
以下の4つの要素を、キャンバスの片隅にテキストツールでメモしておきましょう。
これがイラストを描いているときの「光のルールブック」になります。
- 位置(方向と高さ): 光はどこから来るのか?(例:右斜め上から、真後ろから)
- 色(雰囲気): 光は暖かいか、冷たいか?(例:オレンジ色の夕日、青白い蛍光灯)
- 強さと質: 光は強いか、弱いか?影の輪郭はくっきりか、ぼんやりか?(例:強いスポットライト、柔らかい曇り空の光)
- 距離: 光源は被写体に近いか、遠いか?(例:太陽のようにすごく遠い、手に持ったランタンのように近い)
【イラストの光源について設定の例】

「光源は、左斜め上から。晴れた日の太陽なので、光は白っぽく強い。影の輪郭はくっきり。太陽はすごく遠いから、光の強さはどこでも同じ」
このたった一行の「設定メモ」が、あなたの絵のクオリティを支える道しるべになります。
絵を描き始める前に、まず光源が「どこから、どんな光か」を頭の中でぼんやりとイメージするだけでなく言葉で判るように決めることが重要です。
1.すべての基本!光を理解する「3つの大原則」
どんなに複雑に見える光と影も、突き詰めればたった3つのシンプルなルールに基づいています。物理現象を、イラストを描くための言葉に翻訳して理解しましょう。
原則1:光は「直進」する(イラスト設計の土台)

光は光源から放たれると、何かにぶつかるまでは基本的にはまっすぐ進むと考えてください。
(空間が曲がっていることによって光が直進していないように見えるような特殊環境は想定しない)
【補足】光の「拡散」(描写の仕上げ)

実際の光は、空気中のチリなどにぶつかって強い光が弱い光に散らばる「拡散」も起こします。この拡散光が、影の中をほんのり明るくしたり、影の輪郭を柔らかくしたりします。
光の考え方としては、「まず直進する光で影の形を作成し、その後に光の拡散を考慮して輪郭をぼかしたり、影の色を調整したりする」と考えましょう。
イラストの影を描く場合、まずは直進する光で影の位置や形を考え、次に拡散する光を考慮して輪郭を整えたり、色を調整したりします。
原則2:必ず「光源」が存在する(立体感と情緒の源)
全ての光には発生源があり、その「位置」と「色(例:夕日は暖色、曇り空は寒色)」が、イラストの立体感と雰囲気を同時に決定づけます。
シーンの状況に合わせて光源の色を意識するだけで、イラストの雰囲気や時間帯、場所の説得力が格段に向上します。

光の色合いを示す尺度です。数値が低いほど赤みがかった暖色系の光になり、高いほど青みがかった寒色系の光になります。(例:ろうそくの光 ≈ 1,900K, 晴天の太陽光 ≈ 6,000K)
光の「色」と「位置」が、立体感と情緒を同時に決める。
原則3:光は「直接光」と「間接光」に分けられる
これが、影の色や立体感を理解する上で最も重要な原則です。 真っ暗な部屋で、壁に向かって懐中電灯を1つ点灯させた場面を想像してください。

何か?:
懐中電灯の光源からまっすぐ飛び出し、壁に当たっている円形の強い光。これが「直接光」です。
役割: 太陽や電球など、光源から直接物体に届くメインの光です。
イラストで表現方法:
- 物体の表面に、一番明るい「ハイライト」を作ります。
- 物体の後ろに、輪郭のはっきりした「落ち影」を作ります。

何か?:
懐中電灯の光が壁に当たった後、その壁で跳ね返って(反射して)、部屋全体をぼんやりと照らしている弱い光。これが「間接光」です。
役割: 光源から直接は届かないけれど、壁や地面、空気などで何度も跳ね返ってから届く、脇役の光です。
イラストでの表現方法:
- 「直接光」が当たらない「影の中」を照らします。
- 影が真っ黒になるのを防ぎ、影に色を付けます(例:赤い壁の部屋なら、間接光も赤っぽくなり、影の中がほんのり赤くなります)。
この2種類の光をふまえると、「影」の正体が見えてきます。 影とは、「直接光が遮られた領域」のことです。
しかし、影が真っ黒にならず、私たちがその中の形や色を認識できるのは、そこに常に「間接光」が回り込んでいるからです。影の濃さは、この引き算で決まります。
「遮られた直接光の量(100%)」 – 「回り込んできた間接光の量」 = 影の最終的な暗さ

真っ暗な部屋で懐中電灯を一つだけ点けた時の影は非常に濃くなりますが、明るい部屋では周りからの光が回り込むため、影は薄くなります。
影の濃さは光源から直進した光が「遮蔽(マイナス)」された量と拡散して回り込んできた光が「補填(プラス)」された量の差で決まる。
この「間接光」こそが、後の章で解説する「環境光(空の色)」や「反射光(隣のリンゴの色)」の正体です。
2.光源を操る!イラストの印象を決めるライティング術
光源の位置、その「角度」と「方向」が、キャラクターの印象をどう演出するのかを見ていきましょう。
2-1.基本のライティングと、その効果
- サイド光(光源が人物などの横・斜め上):
物体の凹凸が最もよく分かり、立体感を強調する基本の光。迷ったらまずこれ。
光源が高い(真昼): 落ち影は短くなる。
光源が低い(夕方): 落ち影は長く伸びる。

- 順光(光源が人物などの正面):
立体感は乏しくなるが、キャラクターの表情や色・デザインをはっきり見せたい時に有効。

- 逆光(光源が人物などの背面):
シルエットを強調し、輪郭が輝く「リムライト」でドラマチックな印象を与える。

2-2. 距離で変わる光の強さ=「減衰」

光源からの「距離」は、光の明るさを決めます。
物体を照らす明るさ=光源の強さ÷光源から物体までの距離^2
光源から1mの位置にいる物体と2mの位置にいる物体では明るさが4倍違います。3mの位置になると9倍違う。
距離が離れるほど物体にあたる光は急激に暗くなるため、ランタンやろうそくのような光源をイラストに描く際は手前にある物体と奥にある物体でコントラストをつけて描き分ける必要があります。
これを意識すると、「キャラクターが持つランタンの光は、顔は明るく照らすが、少し離れた足元はかなり暗くなる」といった、非常にリアルでドラマチックな光の勾配を描けます。
(※太陽光のように非常に遠い光源の場合、僅かな距離の差になるため光の減衰は無視できます)
3.影の正体を暴く!立体感を生み出す「5つの要素」
「影」と一言で言っても、実はその生まれ方や性質によって、いくつかの種類に分けられます。
これらを意識して描き分けることで、あなたの絵のリアリティは飛躍的に向上します。
ここでは、影を構成する5つの重要な要素に分解して見ていきましょう。
3-1.形の陰 (フォームシャドウ) – 物体自身の立体感

物体自身の丸みや凹凸によってできる、滑らかなグラデーションの陰です。
例えば、球体の光が当たっていない暗い部分がこれにあたります。これは物体の立体感そのものを表現する、最も基本的な影です。
3-2.落ち影 (キャストシャドウ) – 物体の存在感と位置関係

物体が光を遮ることで、地面や壁、他の物体に落ちる輪郭のはっきりした影です。これは物体の存在感と、その物体が空間のどこにあるのかという位置関係を表しています。
落ち影は光源から来ている光を遮ることによって発生する影なので、イラストのどの方向に光源があるのかを示しているものでもあります。
例: 晴れた日に地面にできる自分の影、スタンドライトを当てた時に壁に映る手の影。
【応用】:
落ち影は、落ちる面の角度によって形が変わります。壁から床にまたがる影は、境界線でカクっと折れ曲がります。

3-3.本影と半影 – 影の輪郭(硬さ・柔らかさ)の正体

影の輪郭がくっきりしている時と、ぼんやりしている時がありますよね。
この違いはなぜ生まれるのでしょうか?その答えが「本影」と「半影」です。
そして、この2つのバランスは「被写体から見た、光源の見かけの大きさ」によって決まります。
【解説】「光源の見かけの大きさ」とは?
これは物理的な大きさではなく、「あなたのいる場所から、その光源がどれくらい大きく見えるか」ということです。身近な例で考えてみましょう。
- 小さな豆電球(点光源):
光がほぼ「一点」からやってきます。そのため、物体に隠された「光が全く届かないエリア」と「光が届くエリア」の境界線が、パキッと分かれます。結果として、
影の輪郭は非常にくっきり(硬く)なります。 - 大きな蛍光灯(面光源):
光が「広い面」からやってきます。物体の影の縁あたりを見てみましょう。
そこは「蛍光灯の右側からの光は遮られるけど、左側からの光は届く」といった、光が一部分だけ届く中途半端なエリアが生まれます。このエリアが影の輪郭をぼやかします。
結果として、影の輪郭はぼんやり(柔らかく)なります。
- 晴れた日の太陽:
太陽自体は巨大ですが、私たちから見てとてつもなく遠い場所にあるため、空に浮かぶ「小さな点」に見えます。
つまり「見かけの大きさ」は非常に小さいのです。これは先ほどの豆電球と同じで、点光源に近い状態です。そのため、地面にできる影はくっきり(硬く)なります。 - 曇りの日の空:
太陽の光が雲全体に拡散され、空全体がぼんやりと光る「巨大な照明」のようになっています。
私たちを包む空全体が光源なので「見かけの大きさ」は最大です。これは蛍光灯と同じで、面光源の状態です。だから、影は全体的にぼんやり(柔らかく)なります。
この「見かけの大きさ」を意識することで、イラストで描きたいシーンの光を自在に表現できます。

- 本影(アンブラ): 光源が完全に遮られた、最も暗い影の中心部分。
- 半影(ペナンブラ): 光源の一部だけが遮られた、影の輪郭にできるグラデーション部分。
「見かけの大きさ」が大きい光源ほど、この「半影」のエリアが広くなり、影がぼやけて見えるのです。
3-4.接地影 (コンタクトシャドウ) – 絵から「浮いてる感」を消す影

「キャラクターがなんだか地面から浮いて見える…」その原因は、この影が描けていないことです。
接地影とは、その名の通り、物体が地面と「接触」している「境界線」、あるいは隙間が0mmに限りなく近い場所にできる、最も濃く、最も細い影のことです。
次で解説する「遮蔽光」という大きな括りの中で、最も光が遮断された「影」です。
普通の影(落ち影や遮蔽光)には、まだ周囲の間接光(空の光や壁の反射光)が回り込んでいます。しかし、物体が地面と接触している「線」の部分は、その間接光すら入り込む隙間がありません。
光がほぼゼロになるため、接地影は「その絵の中で最も暗く、最も彩度が低い(限りなく黒に近い)色」で、かつ「最も輪郭がはっきりした(シャープな)線」として現れます。
【どう描くか?】
この影は、ぼんやりした「面」で捉えるのではなく、以下の2点を意識して描きます。
接地する「境界」に沿って描く 接地影は、物体が接地している形状に合わせて描くことが重要です。
- 球体なら → 接地している「点」に濃く描きます。
- 立方体なら → 接地している面の「辺(フチ)」に沿って濃く描きます。
- 人の足なら → 「かかと」と「つま先側」の形に沿って濃く描き、浮いている「土踏まず」の部分には描きません。

スタイル:特に「厚塗り」で効果絶大 接地影は、「線画」の代わりの役割を果たします。
アニメ塗りなどの、多くの場合「線画」そのものがこの「境界」を示す役割を兼任しています。
しかし、「厚塗り」のように線画で境界を定義しないスタイルでは、この接地影を描かないと物体が浮いて見えます。
ここに濃くシャープな接地影を一本スッと入れるだけで、物体は重力に従って地面にしっかりと固定され、「浮いてる感」が完全に消え去ります。
「接地影」は、光が100%遮断される「境界線」に引く、最も濃くシャープな“締め”の影。
3-5.遮蔽光 – 物体の密度と重量感を出す影

物体の隙間や入り組んだ部分(脇の下、顎の下、重ねた脚の間など)、物が接触している部分など、あらゆる方向からの間接的な光(環境光)すらも届きにくくなることで生まれる、柔らかく、ぼんやりとした影です。
これは特定の光源が作る影ではなく、いわば「光が届かない場所」に自然に発生する暗さです。これを加えると、物が詰まっているような密度感や重量感が一気に増し、ディテールが引き立ちます。
例: ぎゅっと握った指の間、本のページとページの間の根本、床に置かれたボールの真下。

落影と遮蔽光の違いについて表にまとめました。

4.ハイライトを論理的に描き分ける

影が「光が当たらないことによって生じるもの」であるならば、ハイライトは「光源そのものの反射」です。
ハイライトは闇雲に白く塗るものではなく、その「硬さ」「色」「形」「位置」には全て論理的な理由があります。
【ヒント】
複数の光源があるシーン(室内など)を描くときは、まず最も強い光である「キーライト(主光源)」を基準にして影やハイライトの方向を決めると、全体の矛盾が少なくなります。
4-1.材質の表面状態で決まる:ハイライトの「硬さ(鋭さ)」
ハイライトの見た目が最も大きく変わる要因は、物体の表面が「ツルツルか、ザラザラか」の違いです。

例: 金属、ガラス、陶器、水、濡れた表面、プラスチック
理由: 上記の材質は表面が平滑であることが多いため、光を一方向にまっすぐ、鏡のように反射するようにして描かれることが多い。
その結果、光源の形がそのまま映り込んだような、小さく、輪郭がくっきりした鋭いハイライトができます。目のハイライトに窓の形が映るのはこの原理です。
描き方: 小さく硬いブラシで、エッジを立ててシャープに描きます。

例: 人の肌、布、石、木、紙、マットな塗装
理由: 表面がミクロレベルでデコボコしているため、当たった光が様々な方向に拡散(散乱)してしまいます。その結果、ハイライトは輪郭がぼんやりとして、広く柔らかくなります。
描き方: 柔らかいブラシ(エアブラシなど)で、ふんわりと広く描きます。
4-2.ハイライトの「色」を使い分けるシンプルなルール
ハイライトを何でもかんでも「白」で塗っていませんか?ハイライトの色は、物体の材質によって論理的に決まります。
このルールを知るだけで、質感の表現力が格段にアップします。
ルール1:無彩色と有彩色の反射によるハイライト

銀や鉄のような無彩色の金属のような物体は、光の色をほとんど変えずにそのまま反射します。真鍮や金のように有彩色の金属の場合は金属の色が混ざって光が反射されます。
無彩色の場合は多くの色を反射することができますが、有彩色の場合は特定の色のみを反射するためです。
そのため、無彩色の場合は黄色いライトを当てれば黄色いハイライトが、青いライトを当てれば青いハイライトが入ります。周囲の景色も映り込みやすいのが特徴です。
有彩色の場合はベースとなっている材質の色をより強く反射する傾向があるため、ベースが赤色だと黄色の光を当てても黄色の光がそのままハイライトにならずに、赤よりの光がハイライトとして発生します。
ルール2:拡散する物体 → ハイライトは「物体の色」と「光源の色」が混る

「ルール1」で解説した金属(鏡面反射)とは異なり、布、木材、プラスチック、果物といった表面がマットな物体は、光を複雑に反射します。
この時、散乱する光には「光源の色をそのまま反射する光(鏡面反射に近い成分)」と「物体に一度吸収され、物体の色を帯びてから放たれる光(固有色の成分)」が混在します。
そのため、ハイライトの色は単純な「光源の色」や「物体の色」にはならず、「①光源の色」と「②物体の固有色」が混ざり合った色として私たちの目に届きます。
このルールを、2つの異なる光源の例で具体的に見てみましょう。

例: 赤いリンゴ(物体の色)に、白い蛍光灯(光源の色)が当たる。
ハイライトの色: 「赤(物体の色)」 + 「白(光源の色)」 = 白に近い、彩度の低い赤色(=薄い赤色)

例: 赤いリンゴ(物体の色)に、黄色っぽい電球(光源の色)が当たる。
ハイライトの色: 「赤(物体の色)」 + 「黄(光源の色)」 = オレンジ色がかった赤色
4-3.ハイライトの「形」と「位置」の決まり方
4-3-1.ハイライトの位置:

「光源 → 物体 → あなたの目」この光の道が、入射角と反射角が等しくなる一点にのみ、ハイライトは見えます。
つまり、ハイライトは、光が当たっている面の中で、最も視点(あなたの目)の方向に光をまっすぐ反射する一点に現れます。

しかし、現実では表面で光が拡散することが多いため、光の入射角と等しい反射角の方から見なくても何らかのハイライトを見ることができます。
4-3-2.ハイライトの形:
ハイライトの形は、感覚で決まるものではありません。 「光源の形」が、「物体の表面」と「視点」という2つのフィルターを通ることで、必然的に決まる図形です。
そのプロセスは、以下の2段階で構成されています。
- 【物理現象】表面上での「引き伸ばし(ストレッチ)」
まず、視点は関係なく、「物体表面に、光の像がどのような形で着地しているか」を考えます。

- 平面の場合: 面の角度が一定なので、引き伸ばされ方は均一です。像は歪みません。
- 曲面の場合: 中心から端(輪郭)に行くほど、面の傾きが急激になります。そのため、端に行けば行くほど、光の像は表面上で急激に長く引き伸ばされます。
- 【視覚現象】視点による「圧縮」
次に、その表面上の像を「人がどの角度から見ているか」です。

原理: 私たちが面を斜めから見るとき、遠近法(パース)によって、その面上の図形は視覚的に幅が圧縮(短縮)されて見えます。
4-3-3.結論:最終的な見え方の違い
ハイライトの形は、上記の 「① 物理的な引き伸ばし」 と 「② 視覚的な圧縮」 の差し引きで決まります。

現象: 物理的な「歪み」はありません。視覚的な「圧縮」だけが起きます。
結果: 形そのものは崩れませんが、視点によって幅が狭く(細く)見えます。(例:正方形が細長い長方形や台形に見える)
現象: 表面のカーブにより、物理的な「引き伸ばし」が極端に強く発生します。これが視覚的な「圧縮」の効果を上回ります。
結果: 圧縮されてもなお、長く引き伸ばされた形(歪み)が残って見えます。(例:正方形が、曲面に沿って広がって伸びた形に見える)
【応用】材質別の基本的なハイライト描き分け早見表

5.影の色の決め方:環境光・反射光・透過光
第1章で「影とは直接光が遮られた場所」と定義しました。しかし、影を単純な黒(ブラック)で塗ってしまうと、絵は途端に汚く、不自然になります。
なぜなら、現実世界には「間接光」が存在するからです。
5-1. 影の正体は「間接光」

間接光とは、光源から直接届くのではなく、「壁、床、天井、空中のチリなど、あらゆるものにぶつかって跳ね返ってきた光」の総称です。
光は直進しますが、物体に当たると反射・拡散し、部屋中や空間全体を埋め尽くします。 「影」の中には直接光は届きませんが、この「跳ね返ってきた光(間接光)」だけは四方八方から入り込んでいます。
つまり、影の色とは、その場所を照らしている「間接光の色」そのものなのです。
イラストを論理的に描く際は、この間接光を役割ごとに以下の2つに分けて考えます。
- 環境光: 空間全体を満たす光。影の「ベース色」になります。
- 反射光: すぐ近くの物体から跳ね返る光。影の「アクセント」になります。
5-2.環境光:なぜ「影のベース色」になるのか?
環境光とは、空の光や部屋全体の散乱光のように、「その空間全体を包み込んでいる巨大な光」のことです。
影ができている場所は、主光源(太陽など)からの強い光が遮断されています。
すると、その場所を照らす主役は、「環境光」になります。
重要なのは、環境光は「空」だけでなく、「地面(床)」からの照り返しも含んだ、空間全体の色だということです。
【影色の決まり方】
影のベース色は、「上からの光(空など)」と「下からの光(地面)」が混ざり合って決まります。特に地面の色が重要です。

地面が無彩色(コンクリート・アスファルト)の場合: 地面からの光に色はつきません。そのため、影の色は「空の青さ」がそのまま強く残ります。
影の色 = 青や紫(寒色系)

地面が有彩色(芝生・赤土・フローリング)の場合: 地面の色が光に乗って影の中に入り込みます。影の色は「空の青」と「地面の色」が混ざった色になります。
例:空(青)+ 芝生(緑) = 青緑色(ターコイズ)の影
例:空(青)+ レンガ(赤茶) = 紫がかった茶色の影
【実践ポイント】
影の色をパレットで作るときは、単に黒を混ぜるのではなく、「そのキャラがどんな色の地面の上にいるか?」を考えて、地面の色を少し混ぜてみてください。それだけで、キャラが背景に馴染んで見えます。
5-3.反射光:周りの色を拾う「アクセント」
環境光で「影のベース」を塗った後、さらにリアリティを出すために加えるのが「反射光」です。
これは環境光よりも範囲が狭く、「すぐ近くにある特定の物体(隣のモノや体の一部)」から跳ね返った光を指します。
【役割:アクセントとしての色】
反射光は、影の中に周囲の色(アクセント)を加え、物体同士の距離感や一体感を演出します。

- 隣の物体からの反射:
白いテーブルクロスの上に「赤いリンゴ」を置いた時、リンゴの影の中にクロスの白が反射したり、逆にクロスの影の中にリンゴの赤が映り込んだりします。 - 体同士の反射:
腕を下ろしている時、服の脇腹の色が、腕の内側の影にうっすらと反射します。
【実践:レイヤーでの描き方】
反射光は「影の中に光が差し込んでいる状態」です。
1.影レイヤー(乗算): まず今までの影に関する説明の内容と、5-2で決めた「環境光(ベース色)」で影全体を塗ります。

2.反射光レイヤー: その上に新規レイヤーを作成し、隣の物体の色をスポイトで取り、影の「物体に近いフチの部分」にふんわりとエアブラシで塗ります。

推奨の合成レイヤー: 「ソフトライト」や「オーバーレイ」、光を強調したいなら「スクリーン」。
※反射光を強く入れすぎると影が薄くなり、立体感が損なわれるので、「あくまで影の中の出来事」として、不透明度を下げて控えめに入れるのがコツです。
5-4.透過光:透明感を演出する隠し味
最後に、特定の材質でのみ発生する特別な光を紹介します。
葉っぱ、布、そして人の肌(特に耳や指先)などの「薄い物体」に強い光が当たると、光が裏側へ突き抜けてきます。これを透過光と呼びます。

物体を透過する光は物体の厚みや色の濃さ(不透明度)によって透過する光の量が変化します。
葉っぱのような物体の場合、光が透過しにくい物体なので、厚みがある場所(中心側)ほど光の透過は少なくなります。
そのため、透過光は薄い部分ほど影響が強くなります。

逆光の時、境界線(明暗の境目)に、彩度の高い鮮やかな色(肌なら赤~オレンジ)を細く入れることで、瑞々しい透明感を表現できます。

6.感情と雰囲気を演出する「光の設計」
ライティングは、単に物体を照らすだけではありません。
それはキャラクターの感情や、その場の空気感を演出するための最も強力な方法です。
ここでは、光を使って「優しさ」「切なさ」「緊張感」などを意図的に表現する方法を学びます。
6-1. コントラスト(光と影の強弱)による感情表現
光と影の差(コントラスト)は、見る人の心理に直接作用します。
- 特徴:
曇りの日やカーテン越しの光のように、影がぼんやりして光が全体に回っている状態。 - 演出できる感情:
穏やかさ、優しさ、静けさ、切なさ、悲しみ。キャラクターの表情が柔らかく見え、ドラマチックさよりも叙情的な雰囲気が出ます。
特徴:
スポットライトや真夏の直射日光のように、光が当たる部分と影の部分がパキッと分かれている状態。
演出できる感情:
緊張感、恐怖、力強さ、ドラマ、威厳。影が強く落ちることで、キャラクターの表情が険しく見えたり、ミステリアスな雰囲気が出たりします。
6-2. 色温度(光の色)が与える心理的効果
光の色は、シーンの時間帯だけでなく、感情の「温度」も伝えます。
例: 夕日、ろうそく、白熱電球
演出できる感情:
幸福感、温もり、懐かしさ(ノスタルジー)、情熱、安心感。リラックスした、居心地の良い雰囲気を作ります。
例: 月明かり、蛍光灯、深い森の中、水の中
演出できる感情:
冷たさ、孤独感、静寂、不安、ミステリアス、近未来的。緊張感や非日常的な雰囲気を作ります。
6-3. 「感情の焦点」の作り方(視線誘導)
光の最も重要な役割の一つが「視線誘導」です。
人間は、絵の中で最も明るい場所と最もコントラストが強い場所に、無意識に目を奪われます。
この習性を利用し、絵の中で最も見せたい部分(=感情の焦点)に意図的に光を集めます。
- 例1:キャラクターの決意を伝えたい → 他の部分は影に沈め、キャラクターの瞳にだけハイライトを強く入れる。
- 例2:二人の絆を伝えたい → 周囲を暗くし、二人が手を取り合う部分にだけスポットライトを当てる。
- 例3:絶望感を伝えたい → キャラクター全体を逆光でシルエットにし、その手からこぼれ落ちる小さなアイテムだけに光を当てる。
このように、光の設計とは「絵のどこを見てほしいか」を意識的に決定する作業でもあります。
光の「強弱」「色」「当てる場所」を設計し、イラストを見る人の感情と視線をコントロールする。
7.理論から実践へ!思考プロセスとトラブル解決法
ここからは、学んだ理論をどう使い、問題にどう対処するかを解説します。
7-1.実践ワークフロー:キャラクターの胸像をライティングする思考手順
- 光源の設定:
まずイラストの光源を決めます。「光源は右斜め上、少し暖色系の室内灯。光源は近く、柔らかい光なので影は少しぼける」と宣言します。 - 大きな影を置く:
光源設定に基づき、全体の大きな影を置きます。頭部の影が肩に落ちる「落ち影」、顔の凹凸による「形の陰」を、環境光の色(設定に沿うと少し青みがかった色)でざっくりと配置します。 - 密度を上げる影を追加:
「接地影」と「遮蔽光」を描き込みます。顎の下、髪の毛が肌に落ちる影、襟と首の隙間など、光が入り込みにくい部分に、より濃い影を柔らかく追加して密度感を上げます。 - 光を追加する:
反射光:
下にある服の色や、壁の色が反射して、顎の下の影の縁にほんのり明るさを加えます。
ハイライト:
鼻の頭、頬骨、唇など、光源の方向を一番向いている面に、光源の色で鋭く、あるいは柔らかく光を置きます。
リムライト(任意):
もし背後に別の光源があれば、輪郭に光を追加してキャラクターを背景から切り離します。 - 最終確認:
宣言した光源と矛盾がないか、主役である顔に一番コントラストが集まっているかを確認し、全体の「空気色」を調整レイヤーで整えて完成です。
7-2.よくあるつまずきと、論理からの修正法(トラブルシューティング)
絵がのっぺりして、立体感がない。
原因分析: ①「形の陰」が弱い。②「遮蔽光(AO)」が描けていない。③影の輪郭が全部同じで単調になっている。
解決策: ①球体を意識して、面の向きに沿った陰のグラデーションを入れる。②脇の下や顎の下など、物が密集する部分に柔らかい影を追加する。③物体に近い影の根元はくっきりと、先端に行くほどぼかすなど、半影の幅に変化をつける。
キャラクターが背景から浮いて見える。
原因分析: ①「接地影」が描けていない。②「落ち影」が不正確か、描かれていない。
解決策: ①足元や物が置かれている場所に、濃く細い接地影を入れる。②光源から直線を伸ばし、正確な形の落ち影を描くことで、キャラクターがその空間に「存在している」ことを示す。
影の色が汚い、濁って見える。
原因分析: ①影を単純な黒や灰色で塗っている。②主光源の色と影の色が近すぎる。③反射光を強く入れすぎている。
解決策: ①「暖色の光には寒色の影」の法則を使い、影色に補色に近い色相(青や紫など)を混ぜる。②反射光は影の最暗部には届かないことを意識し、影の縁に限定して控えめに入れる。
ハイライトが安っぽく見える。
原因分析: ①材質を無視して、全部同じように白いハイライトを入れている。②ハイライトを大きく入れすぎている。
解決策: ①金属なら光源の形を映したように硬く、肌ならぼんやりと柔らかく、など材質によって形と鋭さを変える。②ハイライトは「最も光が強く反射する一点」なので、面積は最小限に留める。
まとめ:理論を「描く力」に変えるために
非常に多くのことを読んだり考えたりしたいと思いますが、全てを一度に完璧にマスターする必要は全くありません。
重要なのは、この記事で紹介した「光と影を支配する、いくつかのシンプルなルール」を、あなたの「思考の武器」として手に入れたことです。
この武器を本当に使いこなせるようになるために、今日からできることは非常にシンプルです。
あなたの身の回りにあるものを見てください。
- 机の上のマグカップの影はなぜその形なのですか?
- なぜ影の付け根は濃くて、先端は薄いのですか?
今日学んだ言葉(本影、半影、接地影など)を使って、頭の中で実況中継してみてください。
「これは面光源だから半影が広いな」と考えるだけで、あなたの観察眼は飛躍的に鍛えられます。
まずは簡単な球体を描く練習からで構いません。「観察→言語化→再描画」のサイクルを繰り返してください。
理論を「わかる」で終わらせず、実際に手を動かして「描ける」に変える作業こそが、あなたを成長させる唯一の道です。
論理は、あなたの創作を縛るものではなく、迷いを減らし、表現の自由を広げるための強力なツールです。
この記事が、あなたのイラストを次のステージへ引き上げる一助となれば、幸いです。
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